法定利率
更新日:2015.8.17現在、国会で安保法制が激しく議論されていますが、その裏で、ほんとうは民法(債権法)の改正の審議が予定されていたことはご存じでしょうか。
今国会での成立は絶望視されているようですが、このたびの債権法改正は、100年以上大きく変更されることのなかった民法を大幅にアップデートする、ある意味で重要な法案なのです。
改正事項の多くは、これまでの私たちの暮らしを大きく変えてしまう内容ではありません。もっとも、その中でも日常生活に関係する可能性のある改正事項のひとつに「法定利率」があります。
「法定利率」は、法律で定められた利率のことで、利率の約束をしていない貸金や損害賠償などの金銭債権に適用されます。現在の民法では「年5%」と決められていて、変動は予定されていません。現在の実勢金利よりかなり高くなっているため、問題視されることが多くありました。
そのため、今回の改正で、法定利率を「年3%」に下げ、3年ごとに利率を見直す(つまり変動する)ことになりました。
これだけではあまり私たちの生活に関係しないように思いますが、自動車保険などの損害保険の保険料に大きな影響を与える可能性があります。
というのも、たとえば交通事故などで重い後遺症が残ってしまったとき、後遺症がなければ将来働いて稼げたはずの収入(「逸失利益」)を損害賠償として請求することがあります。その場合、将来の数十年分の損害がまとめて支払われることになるため、実務上は、逸失利益の算定期間に応じた運用益が差し引かれます(「中間利息控除」)。
この中間利息控除は、最高裁の判例により法定利率で計算することにされていますので、これまでは年5%で計算されていたものが、今後は3%で計算されます。当然控除額が少なくなりますので、計算上は、損保会社が被害者に実際に支払う補償額が多くなるのです。
あくまでも私見ですが、損保会社はこれまでよりも多額の補償をしなければならなくなるわけですから、自動車保険の保険料も、これまでより値上がりする可能性が十分にあるわけです。
風が吹けば桶屋が儲かるという表現がありますが、ひょっとしたら、意外と私たちに身近な問題になるかもしれません。